強迫性障害と医療経済

 
 はじめに
 表題は難しいですがこのページは予め分かり易く管理人がまとめてみました。
 ご了承ください。
 
 簡単にいえば治療(認知行動療法)を受けた場合と受けない場合の「お金」のお話です。
 強迫性障害にかかるとどれだけ「お金」がかかるか、強迫性障害を治療するのに
 かかる「お金」をいくら「倹約」するかということです。
 具体的な費用が出ていますので、強迫性障害以外にも置き換えられるものがあると思います。
 
 認知行動療法以外の場合(例) 
 
 医療費 入院費 薬剤費 (直接コスト)
  例)33歳女性 加害強迫 入院9回 救急受診無数
     テグレトール 300mg トレドミン 75mg レキソタン6mg
     ガスター 40mg ベサコリン45mg パントシン 600mg
     ジプレキサ 10mg さまざまな頓服薬
 
 間接コスト
  例)14歳女性 一日の手洗いコストの例 
     シャンプーボトル2本 ボディーソープ1本 2時間風呂 
     トイレットペーパーが36ロール 一月水道代金5万円
  例)確認電話など
 
 認知行動療法の場合
 
 以前の治療費用
 入院日数×10890円
 薬剤費(一日の薬価×30×今までの治療月数)
 間接
 患者や家族からの強迫行為に伴う浪費について聞き取り
 治療後就労した場合は、そのときの月収×治療前の非就労月数
 E&RPの医療費の計算方法
 外来治療:外来セッション回数×医師時給(8000円)
 入院治療:入院日数×10890円
 
 E&RP    エクスポージャーと儀式妨害
 Y-BOCS   症状評価リスト
 EBM    明確な根拠に基づいた医療 (詳しくは原井医師のサイトを参照してください) 
    
      分類例 
      中核的コスト直接的コスト入院医療費 
      外来医療費 
      補助的経費公的研究費
      医療関係者研修費
      間接的コスト罹患によるコスト疾患によって失われた患者の収入
      生産性の低下や休業日
      手洗いの水道代・紙代
      死亡によるコスト将来得るべき収入の損失
      他のコスト直接的コスト司法や社会福祉障害年金、生活保護
      疾患の見落としによる医療費の増大
      間接的コスト社会や家族のコスト刑務所に収容されたために失った収入
      家族が介護のために失った収入

 
 
      直接コスト以前に使われた治療費884,525円
      間接コスト逸失利益、強迫行為に伴う浪費1,050,000円
      コストの合計1,932,637円
      E&RPの治療費用348,781円
      コストの合計-E&RPの治療費用(コストオフセット)1,583,855円

 
★E&RPは手間と時間がかかるが,全体としては医療費全体の節約になること,強迫行為に伴う
 浪費がなくなることから、経済的な治療方法である。
 
治療の内容
 セルフモニタリング
 不安階層表(ハエラキー)の作成
 薬物療法
 SRIの単剤(Dose Titration)
 他の薬剤からの離脱(特にレキソタン)
 E&RP
 動機付けが必要ですぐにできるとは限らない
 家族療法
 家族を治療者にトレーニングする
 代理による強迫行為をとめる(一種のイネーブリング)
 18歳未満
 E&RPが行いにくい 家族療法(家族によるモニタリング 薬物)
 
 データ
 強迫性障害の患者43人
 27人はE&RP以外の認知行動療法とSRI
 16人(男性6人,女性10人)の患者はE&RPを受けた
 6名の患者は入院(1〜3ヶ月)によって行った
 10名は外来で治療を行い、セッション数は5〜10回
 E&RPを受けていない患者の転帰
 Y-BOCS 治療前平均 28 治療後 16 43%減少
 E&RPを受けた患者の転帰
 Y-BOCS 治療前平均 29 治療後 13 56%減少
 
 
 ●E&RPを行った方が改善率が高かった
 ●E&RPはコスト対効果が高い
 
 ◎では、なぜ認知行動療法が浸透しないのでしょうか?
  
 1)強迫性障害を治療できる施設が少ない
 2)E&RPが普及してない
 3)EBMに従った薬物療法が普及していない
 4)SRIは即効性がないので効果がでるまで我慢が医師・患者とも必要
 5)効き目がでなくても耐性最大量・4週間まで試みることが必要
 6)患者の訴えで薬を追加する習慣があるため
 7)効果判定(セルフモニタリング,Y-BOCSなど)を継続的に行い、無効と判断したら薬を
   止める勇気が必要
 8)最大量で無効のときは、薬の切り替えを行い、他剤の追加は行わない
 
 ◎上記からわかるように医師・患者・家族それぞれに忍耐・我慢・時間が必要です。
 
 
 『不安障害』
 
  不安障害について以前は、”正常”に近い状態であり,患者が”心配しすぎる” のだとされ、
    精神障害とは、不安から鬱そして精神病へと 連続的に移行するものだと考えられていました。
    統合失調症と双極性障害を代表とする精神病がメジャーな精神障害であり、医療費を投入するに
    値する疾患で、不安障害と、それほどではないけれどうつ病は、マイナーな疾患であると信じ
  られていました。今日、不安障害は気分障害や精神病性障害からはっきりと独立した心理生物
  社会学的な障害であり、正常者の不安や恐怖とも区別できることが知られています。
  不安障害は単なる精神病性障害の初期段階ではなく、他の多くの精神障害と同じく、典型的には
  慢性または挿話的にほとんどの患者の人生の全般をむしばむ。不安障害は医学的に取りに足らない
  病気ではなく、患者を強く苦しめる重大な疾患であるとみなされるようになりました。
  不安障害は精神病性障害より多いばかりではなく、それまで最も多いと思われていた精神障害の
  グループである薬物使用性障害や感情障害よりも多いということがわかったからです。
  米国合併精神障害研究で、強迫性障害を対象疾患から除外していますが、不安障害全般については
  12ヶ月間の有病率が17.2%、生涯有病率も24.9%であることを報告し、これらの精神障害が精神障害
  全般の中で最も多いことを示しました。
  不安障害は、感情障害や薬物使用性障害よりもより慢性的でありごく一部しか医療機関にかかって
  いませんでした(過去に何らかの治療を受けた人は5人中1人、精神的治療を受けたのは9人に
  1人の割合であった)。
 
 不安障害の損失計算
 中核となる費用
 【直接的費用】
  病院でのケアの費用は、不安障害が主病名である場合の入院一日あたりの経費を一年あたりの
  入院日数と掛け合わせて経費を計算することが出来るし、不安障害が二次的な病名や合併病名で
  ある場合は、主病名に付け加え入院日数がのびたと考え計算する。
 【間接的費用】
  これらのコストは患者の現在の収入を基にして不安障害がどれだけ収入に影響したかどうかを
  計算する。
  データは入院している人と自宅で暮らしている人たちの両方を計算。
  死亡によるもの:この疾患のために早く亡くなった人たちが将来得るべき収入を計算することに
  よって、損失計算が出来る。不安障害による死亡は主に自殺である。うつ病や他の感情障害は、
  自殺全体の40%-70%の原因となる。
  不安障害は全体の10%となる。
 
 その他の費用
 【直接的費用】
  司法や社会福祉に使われる費用を計算し、医療以外の直接的なコスト
 【間接的費用】
  精神障害に関連した犯罪のために刑務所に収容されている期間失われた価値と家族が精神障害を
  持った患者をケアするために失われた時間
 
  それぞれの精神障害の全体的なコストは直接的な損失と間接的な損失を含めて中核的なコストと
  呼ぶが、それに他の費用を含めたものである。
 
 不安障害の中核的なコストは二つのカテゴリに分けることが出来る。
 1)直接的なコストは
     精神障害全体の直接的なコストの16.3%に相当
 2)間接的なコストは
     間接的コストの47.3%に相当
 
  不安障害によるその他の関係するコストは、中核的コストをのぞいたものであるが、不安障害
  全体の1%以下である。
  それぞれのコストはほとんどが司法関連の費用である。不安障害はすべての精神障害における
  その他のコストのうちの5.9%を占めるだけである。
  司法関係のコストに於いて不安障害はあまり影響を与えていない。
 
  精神障害の分類からすると、不安障害は他の主な精神障害のグループと比較すると二つの点で
  大きく違い、最初に不安障害はすべての精神障害の全体的なコストのうちの31.8%という最も
  大きな比率を占めています。
  これは不安障害というものが軽い疾患であり、病気と呼べないような一般的なステレオタイプを
  裏切るもので、不安障害の有病率が高いということを反映しているだけでなく、経済的な生産性に
  影響していることを示します。
  若年者に不安障害が発症することと、不安障害が経済的な負担の重さを反映しています。
 
  不安障害のコストは不安による直接的なコストが占める比率が低いことが特徴的。
  不安障害についてはそのコストの23%のみが治療のコスト。
 
  精神障害全体でいうと,直接的なコストはすべてのうちの45%を占めています。
  その他の精神障害における全体に占める治療のコストを示すと、統合失調症53%、感情障害53%、
  その他の不安障害は51%で、このような不安障害とその他の精神障害との違いは,部分的には
  不安障害は高額な入院という形式で治療されることがほとんどないということ(他の精神科疾患は
  入院がよくある)
  これは逆に言えば不安障害による間接的コストが高いことを示しています。
 
  不安障害はほとんどのヘルスケアの状況において、特に精神保健の以外では見逃されることが
  多いので、直接的なコストは真の値より相当低いものと思われます。
 
  間接的なコスト・・・失われた生産性によるコストは不健全さによるコストと死亡によるコストで、
  不健全さによるコストは施設入所や入院などと通院のみの場合に分けることが出来、入所や入院の
  人の場合のコストは、すべての精神障害の中では6.4%で、不安障害だけでみると3.1%にとどまります。
  逆にすべての精神障害における入院以外の人々の間接的なコストのうち不安障害は58.5%であり、
  この研究の様々な費用の中で、最も大きな割合を占めるところです。
 
  臨床診断を持たない個人とパニック障害や強迫性障害や恐怖症を持つ人との間で、就労率を男性女性に
  おいて調べると、男性において失業率は21%であるがパニック障害を持つ人のでは60%、強迫性障害を
  持つ人では45%、恐怖症を持つ人の場合では36%である。女性における就労率に対する不安障害の
  影響は男性と比べると顕著ではありません。
 
  診断を持たない人の未就労率は46%、パニック障害69%、強迫性障害65%、恐怖症54%で
  あった。
  現在経済的な援助を受けているかどうについて不安障害の場合には驚くべき数字があり、診断を
  持たない人が障害年金を受ける割合は男性5%、女性4%であるが、パニック障害を持つ女性は
  15%が年金を受けており、他の不安障害においても診断がない人に比べて高くなる。
 
  不安障害を持つ人では、一般に他の共存する精神や身体疾患を持っており、複数の診断を持つ人は
  より障害が重く合併する障害を持たない人と比べて、医療サービスを多く使うことが分かっています。
 
  最近不安障害の経済的な影響において総括的なまとめが出版されました。
  著者らは、不安障害はたいへんの多い疾患であり、お金がかかり(引用:厳密に統制された治療効果
  研究をもとにして考えると、幅広い不安障害に対する有効な心理社会的介入方法を持っている)
  彼らはまた評対効果研究を進めることが大切であり、特に現在のマネージ度ケアの時代にあっては、
  金がかからずかつ効果の高い臨床的な介入方法を求める声が強くなっているからです。
  不安障害の経済的な負担の特定の領域における研究が様々に出版されています。
  それによるとパニック障害の人では医療サービスを受ける率が高いとか、また、治療を行うことに
  よって医療費の削減が出来ることを示したものもあります。
  プライマリケアにおけるうつ病や不安障害のコストは上昇しています。
 
  米国強迫性障害財団のメンバーを対象に心理社会的機能と経済的コストに対して410項目に及ぶ
  質問紙を行い様々な直接コストが見いだされています。その中の一つには無効な治療法や入院を
  含んでいると示されました。強迫性障害のコストの多くは失業などの間接的なコストです。
 
  不安障害の治療におけるコストと効果に関するレビューによれば、薬物療法と心理社会的な療法
  すなわち認知行動療法であるが、費用対効果の点においてかかった費用を帳消しにする程度であり、
  全体の直接コストや間接コストを低下させるということが分かっていますが、この結論をはっきり
  させるためには今後の研究が必要で、著者は心理社会的な介入方法がうまくいくという多数の
  研究があることを示しています。
  パニック障害に対する非薬物療法と薬物療法を比較すると次のようになります。
  後発品のイミプラミンを用いた場合には治療一回ごと912ドルでありそれは薬物療法としては最も
  安く、一方、認知行動療法が600ドルで、非薬物療法の中では最も安価です。認知行動療法は患者の
  治療継続率の点で薬物療法よりもすぐれており、また全体的な有用性においては薬物療法と同等です。
 
  今日、不安障害やその他の疾患の医療費の大半はマネージド・ケア会社から支払われており、
  これらの会社は直接的なコストに強く関心を持っています。したがって医療経済学は近年新しい
  時代に入っています。医療以外のケアのコストは、マネージド・ケア会社の予算の中には表れて
  きません。生産性の低下がマネージド・ケアのコスト要因にならないばかりでなく、マネージド・
  ケアのシステム以外に受けるヘルスケアのコストもコスト要因にならないのです。
  “コスト”は現代のマネージド・ケアの文脈においてはマネージド・ケア会社が払わなくては
  ならないコストのことを意味しており、すなわち民間保険を支払っている人々のコストです。
  不安障害の間接的なコストが大変高いこととこれらのコストが効果的な治療によって縮小出来る事が、
  マネージド・ケアの経営方針に影響して不安障害の治療にもっと重点をおくとは思われません。
  治療のコストを下げることのみに注目しているマネージド・ケアは不安障害の治療のケアのレベルを
  あげることに対して潜在的な障害になるし、治療を受ける患者数と治療の品質の双方に悪影響を
  与えるでしょう。
  しかし、マネージド・ケアにおいてケアの品質に注目することによって、不安障害において
  費用対効果が優れた治療がもっと認識され、不安障害の治療がもっと広い範囲で、マネージド・ケア
  の中で提供されることが従来の伝統的な出来高払いの環境と比べれば、マネージド・ケアの方が
  治療の品質に注目し、効果的な治療が広く系統的に用いられるようになるかもしれません。
 
  マネージド・ケアの費用は雇用者によって支払われていることから、雇用者の側が精神障害における
  生産性の低下を認識し,不安障害においてもそのことを認識するかもしれません。
  雇用者は精神障害による生産性の低下に強い関心を持っています。
  しかし、労働力市場にいない人々のニーズは雇用者の責任とは考えられていません。
  それは政府の責任であり、Medicare や Medicaid(これは近年マネージド・ケアの範囲となった)が
  それの大きな支払者となっています。
  近年のマネージド・ケアにおける決断においては、最も関連するヘルスケアの問題はコストの削減
  であったり、マネージド・ケアのコスト環境の中では治療のコストと効果です。
  新しいコスト研究が最近始まり、今までよりも厳密に治療の利益を測定するようになり、それらは
  精神保健のヘルスケアコストを含めるだけでなく、それ以外のヘルスケアのコストを含めることに
  なりました。臨床的な経験やコスト削減における予備的な研究によれば,不安障害はヘルスケアの
  コストを増加させる要因であり、不安障害に対する有効な治療法はこの状況においては費用対効果の
  大変高い治療法です。
 
  うつ病はこのような新しいコスト削減研究の最前線にある。
  抗うつ薬療法はうつ病の第一線療法となったが,心理療法よりもコストがかからないからである。
  そして抗うつ薬療法はプライマリケア医によって提供することが出来るからである。
 
 
  不安障害は大きな経済的重荷となり、精神障害全体の総額の31.8%である。
   不安障害の全体的コストの推定は高い直接的コストと高い間接的コスト。
   不安障害の間接的コストは、不安障害の全体的コストの76.3%を占め精神障害全体の間接的コストの
  47.3%である。これらの数値は標準的な医療経済的な手法に基づいて疾患のコストを計算しており、
  不安障害による経済的負担が大きいことを示す。また不安障害であるにも関わらず、施設や入院
  以外の人々における不安障害による不健康さによる収入の低下や障害の結果として、治療自体では
  ないその他のコストが不安障害において大変大きいことを示している。
 


 
  
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