※ 専門家のコラム(5) ※


** 専門家のコラム ** 
♪OCD にまつわるエトセトラ♪       (アイズサポート 伊藤 久志)

 今、この文章を仕事帰りの新幹線の中で考えています。今日は、今年の仕事納めの仕事として、ある都市に住むOCDの方を訪問して、ERPを実施しました。お宅に到着して、2時間くらいかけて実施しました。一通り予定していたERPを実施した後、クリスマスに作る予定にしていたケーキをまだ作っていないということだったので、一緒にケーキ作りをしました。久しぶりのケーキ作りだったので、私の方が緊張して、変に楽しんでいたかもしれませんが、素敵なケーキが完成しました。写真もいっぱい撮りました。実食の前に再度ERPを実施し、ケーキを食べました。ERPを頑張った後のケーキは格別に美味しかったです。ケーキを食べながら、訪問先の都市の名物の話になり、いくつかのおすすめを教えていただき、帰りの新幹線ではその名物を肴に缶ビールを飲みながら文章を考えています。そんなその土地の名物を食べられるのも訪問サービスの楽しみでもあります。
 私は昨年からOCDの人の支援をするようになりました。特に、訪問という形式をとれることが当方の強みです。ただ、OCDに関しては無知だったために、知識・技術・経験において劣っているのが弱みです。現場に初めて出た時のような初々しい気持ちで、OCDの勉強に取り組みました。現在、私はOCDの会に参加させていただいています。もともと人見知りで緊張する性質なので、毎度参加することが億劫に感じたりします。でも、思い切って行って参加者の皆さんと話したり食事に行ったりして、自宅に帰って来るとなぜか晴れやかな気持ちになっていることに気付きます。これはまさにエクスポージャーだなと思います。OCDの会に参加させていただくことで、様々な強迫症状を知れたり、参加者の皆さんが変化していくことがわかるということが、非常に大切な勉強になっています。
 さらに、名古屋メンタルクリニックの集中訓練の陪席もやらせていただきました。「百聞は一見にしかず」とはよく言いますが、まさにそれを体験しました。私の未熟な点として、生活を阻害しているメインの強迫症状以外に、治療を妨げる細かい強迫症状に気付いておらず、それが故にERPに導いたり、支援を進展させたりすることが困難だったことがわかりました。「質問強迫」「情報強迫」「行動前強迫」「行動後強迫」がキーワードでした。それらの強迫症状にどのように対応してERPを実施していくのかを実際に観察できたというのは、私にとって宝物になりました。
 そんなこんなで、社会人として当たり前ですが、勉強と実践を並行しつつ仕事をしています。そのなかで、自分にも回避している対象があることに気付いて、エクスポージャーを試してみたり、OCDのために数年間家に引きこもっている親戚を思い出し連絡を取ってみようかと思ってみたりもしています。
 OCDに出会ったことで、臨床の中に新たな視点を持てたことに感謝しています。でも、それだけに満足せず、OCDの人のための支援のレパートリーとして、「アイズサポートの訪問サービスがあるよ!」と言っていただけることを目指して、これからも精進していきます。



♪OCDの会の掲示板と私♪     (なごやメンタルクリニック 岡嶋 美代)

 言いっぱなし、聞きっぱなしに慣れない方々は患者さんにも家族の方々にもいらっしゃいます。大げさに言わせてもらえれば、ある意味、質問強迫の方々は世話人さんたちにとって、一番の「敵」でもあります。一方で、初めてOCDの会に参加する人たちからすれば、辿りつけた治療への糸口、そこで少しでも多くの情報を仕入れて帰りたい、ましてや、やっとの思いで出かけてきた、今日、この時…「敵」と言われようと迷惑がられようとも、人の話をただ黙って聴くことにどんな意味があるのか理解不能なことでしょう。
 掲示板の利用も同じです。書きっぱなしという無責任な書き散らかすことを推奨しています。そんな「つぶやき」は意味がない!などと言ってはいけません。掲示板は読みっぱなしで流すだけです。あれ?瞑想に似てますね。時々、家に回ってくる回覧板のように、時々勝手に届くダイレクトメールのように、右から左へ。我が家から隣の家へ、ポストからゴミ箱…へのように流れている時はいいものです。滞ると色々厄介なことが起きます。ひっかかってはいけない、しかし、やっていいことがあります。「ハッ!」とか「フワッ」とわいてくる思いつきです。それは私たち誰にでも自由に許されています。でも、残念ながら質問の答えではありません。知識を引き出すところと、ハッとするところは、脳の使い方が違うようです。知識のひけらかしになると、どこかで不愉快な感情を相手から引き出すことがあります。そうならないように、ギリギリのラインを作っているのが書きっぱなしの掲示板です。
 ところで、このような文章を読んでいる皆さんは今どんな脳の部分を使っていらっしゃるでしょう。知識優位の脳なのか、本能優位の脳なのか。書いてあることが面白くなければ、閉じることができます。興味がわけば読み続けることができます。そんなふうに読み手の自由に任せられている時は気楽です。行動療法も同様に、上手く行くには一つのコツとして、自分の内側から沸き起こってくるような内発的動機づけというものを大事にすることで、それが活性化するように周囲が関わることが大切です。動機づけ面接でも、動機を注ぎ込もうと思ってはいけない、動機は相手の内に潜んでいるものをくみ上げるようにすることだと言われています。教えるという態度が相手の前へ進もうとする態度を押さえつけてしまうことにつながるから、許可を得ずに助言をすることを戒めています。でも、喉から手が出るように、今まさに変わりたいと思っている人がいたら、小出しにしながら情報を提供していきたいと思います。その見極めがとても難しいものですが、「掲示板の雰囲気を壊さない程度に、助言することをお許しください!」と思って書いています。



♪ごあいさつと、神経性食思不振症のお話♪ (名古屋大学医学部附属病院 鈴木 太) 

原井先生、岡嶋先生にお誘いいただき、本欄の筆者の一人となりました。そろそろ若手と呼ばれない年齢になってきた中堅の児童精神科医です。児童精神科医と言ってもさまざまな専門性がありますが、当院での臨床では12歳から18歳の初診を担当としており、気分障害(青年期のうつ病と双極性障害)を主な専門としています。
 先日、David Rosengren先生による動機づけ面接のワークショップに参加させていただき、その後に行われた懇親会で、原井先生から皆様に、神経性食思不振症(Anorexia Nervosa;AN)の専門家でもあるとご紹介をいただく機会がありました。さまざまなご縁があって、現在、私の外来にはANを発症した青年期の女性がよく来院されています。私が師事した切池信夫大阪市立大学名誉教授は、摂食障害をご専門とする精神科医で、平成11年に大阪市立大学医学部附属病院神経精神科の教授に就任され、その年の精神科研修医の一人が私でした。平成14年に私は大学院生として大阪市立大学医学部附属病院に戻り、同期5名のうち、私を含めた2名がANの入院担当を拝命しました。摂食障害と社交不安障害をご専門としていた永田利彦先生が入院行動療法を熱心に指導しておられ、ANの患者さん方とは、それ以来のお付き合いです。
 ANは強迫スペクトラム障害の一つに挙げられ、皆様がよくご存じの強迫性障害(Obsessive Compulsive Disorder;OCD)と同様、その行動は容易なことでは変化しにくく、寛解を得るためには、当事者、家族、臨床家の多大なエネルギーが必要です。治療をより早く開始して(Amemiya et al.,2012; Steinhausen,2002)、入院行動療法などで体重を十分に回復させ(Amemiya et al.,2012;Rigaud et al.,2011)、外来治療を粘り強く続けることがANの寛解につながるようです。総合病院の一部門としての児童精神科という恵まれた立場を活かしながら、地域に生活する当事者の方々の支援ができれば、と考えています。
 今年の秋、原井先生、岡嶋先生のご厚意で、OCDの会でANをテーマとしたお話をさせていただくことになりました。拙い経験ではありますが、切池先生、永田先生が指導しておられた当時の大阪市立大学でANの診療を経験した一人として、語れることを語ってみようと思います。宜しくお願い申し上げます。 
【文献】
Amemiya N, Takii M, Hata T, Morita C, Takakura S, Oshikiri K, Urabe H, Tokunaga S, Nozaki T, Kawai K, Sudo N, Kubo C. The outcome of Japanese anorexia nervosa patients treated with an inpatient therapy in an internal medicine unit. Eat Weight Disord. 2012 Mar;17(1):e1-8.
Rigaud D, Pennacchio H, Bizeul C, Reveillard V, Verges B. Outcome in AN adult patients: a 13-year follow-up in 484 patients. Diabetes Metab. 2011 Sep;37(4):305-11.
Steinhausen HC. The outcome of anorexia nervosa in the 20th century. Am J Psychiatry. 2002 Aug;159(8):1284-93.

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